【インタビュー前編】KEN THE 390が語る、強いラップと 小説「ブリング・ザ・ビート」※ 文末にKEN THE 390×KAIHO(OCTPATH)ミニインタビュ-有
取材・文 : Kobou Kadota
写真:JET
KEN THE 390は、これまでのキャリアを通じ、多岐にわたるマルチな活躍をしながら、ラッパーとして確かな足跡を残してきた。その背景には、「自らが生きてきた環境」や「至らなさ」を否定せずに受け止め、常にラップにして語ってきたという信念がある。
本編では、自作小説『ブリング・ザ・ビート』(※) で、彼自身のキャリアを振り返りながら、その根底に流れる”自己受容”からの“自己肯定”の思想と、ラップでそれをどう表現したかをたどる。
※『ブリング・ザ・ビート』:KEN THE 390が自ら執筆したweb小説。2025年5月8日にnoteにて無料公開された。➤ https://note.com/kenthe390_/n/n0d919c26d1fa
自分には“何もない”と思った学生時代
ーー小説『ブリング・ザ・ビート』を書かれたきっかけは?
KEN THE 390:ずっと書いてみたいなと思ってて。でも、「書いてみたい」と「書ける」は違うかな、とも思ってたんですけど、たまたまストーリーのプロットを思いついて、書いてみました。
ーーなぜ、“小説を書く”ということに挑戦しようと?
KEN THE 390:純粋に書いてて楽しかったっていうのもあるし、もう少し大きな意味で言うと、僕は、ラップとかヒップホップが好きで、人生そこに賭けてきていて、その魅力をラップで表現してたのですが、「それって音楽だけじゃなきゃダメなのかな?」って。音楽以外にも可能性あるんじゃないかなと思って。
ーーそれは、何がきっかけで?
KEN THE 390:いろんな活動を通して、キャリアを重ねる中で思うようになってきたんです。フィクションの力を使って、そのストーリーを読んだ人が「ラップってこういう良さあるのかも」とか、「ヒップホップと出会って人って変われるんだな」とか、感じてもらえるんじゃないかなって。
僕自身もいろんな人のHIPHOPを見てきたし、その魅力を伝える手段として、物語の力って面白いかもなと思ったのが理由です。
ーーいつから執筆を考えていたのですか?
KEN THE 390:プロット的なものを思いついたのが、今年入ってからです。でもそれができたら逆に一瞬で書けましたね。
ーー反響はいかがでしたか?
KEN THE 390:アルバムよりあったんじゃないかってぐらいありましたね。
逆に「なんだよ!」って思いました。
アルバム、十何枚も出してるのに。アルバム出したときより、反響が良い気がして、「なんだこれ!?」って(笑)。
ーー主人公の斗真は、進学校に通う普通のご家庭の高校3年生。KENさんご自身に似ているのかと思いましたが、キャラクターに自己投影されてる面はありますか?
KEN THE 390:斗真は、進学校育ちで、普通にちゃんと生活させてもらっている。もちろん、すべてが自分と同じというわけではないけど、最初、ヒップホップのシーンに対して外側から物を見ているところは、どっちかというと僕側の目線だと思う。
ーーヒップホップシーンの外側の目線とは?
KEN THE 390:ヒップホップの世界って、自分のネガティブな環境や一面を歌詞にすることによって、それを武器に変えていくところがある。でも、それって世の中、世間一般としては全く逆なんですよね。
だから、ヒップホップ業界に憧れてしまうと、”普通にちゃんと生活”は、自分に”何か足りない”ってすごく思ってしまったりする。
ーーなるほど、世間とは逆の目線ということですね。友達の亜丸は、主人公と同い年ながら鳶職として働き、母子家庭を支えている少年ですね。ヒップホップの主人公になりやすいのは、どちらかというと亜丸タイプ?
KEN THE 390:そうだと思います。実際、出来上がって読んでみたら、主人公より亜丸の方がかっこいいじゃないか、みたいなところはあります。
「普通」から1歩踏み出してみた、ラップが始まった
ーー逆のタイプの優等生の斗真を主人公として、その視点で書かれるっていうのはすごく斬新ですね。
KENさんご自身の辿ってきたルーツなども含まれたりしていますか?
KEN THE 390:僕が書いたので、やはり僕の目線からの話になっているところはあるとは思う。
ーー斗真のご家庭の描写もとてもリアリティがあって、お母さんが父親に向かって、「今どれだけ大事な時期か、分かってるでしょ」と怒るところは、リアルで、実体験じゃないかと思わされました。逆にお父さんは、とてもユニークで、「勉強ばっかりしてたらバカになるんだ」と(笑)。
KEN THE 390:うちはあんまりああいうタイプではなく、父も「ちゃんと勉強しろ」というタイプです(笑)。僕自身が父親になったり、自分が受験勉強とかもしてきた結果、それを踏まえて僕の気持ちで書いてる感じがあります。
ーーすごくこんなお父さんがいたらいいなと思いますが、なかなかこういう人はいないですよね(笑)。
KEN THE 390:あんまりいないですね。あと、お母さんからしたら、すごく腹立つと思います(笑)。
ーー夫婦喧嘩になりそうですよね(笑)。
KEN THE 390:ほんとに(笑)。
ーー主人公の斗真は、学校で友達に見せられたMCバトルの映像に影響を受けて町田のサイファーに通うようになる。最初の斗真の挑発的なシーン。 ―「てか、お前ら全員雑魚の集まり、俺にかなうやつなんかない伝説の始まり」いきなりケンカをふっかけるようなリリックを吐きますね。
ここでは、サイファー(※)とMCバトル(※)の違いにも触れられています。
※サイファー:複数のラッパーが輪になって即興でラップを披露し合うセッション。競争ではなく、交流やスキル向上を目的とした自由な表現の場。
※MCバトル : ラッパー同士が即興でリリックを競い合い、言葉やリズムで相手を圧倒する競技。観客の反応や技術の巧さが勝敗を決める。
KEN THE 390:サイファーとMCバトルって世の中の人は、みんなごっちゃになってるんで、MCバトルは大会だし、普段、みんなでフリースタイル(※)して遊ぶときにバトルしたら喧嘩になる可能性もあるし、本当はしないよね、みたいなのを、説明じゃなく描写で描きたいと思い書きました。
※フリースタイル:事前に用意せずその場で即興でラップを行うスタイル。瞬時の思考と語彙力、リズム感が求められるヒップホップの表現形式。
ーーこのラインも、最初にこれをいきなり言えた斗真って、やっぱり才能がある兆しなのでしょうか?よく少年漫画で全然のド素人がいきなりものすごい才能をみせて、プロを驚かせるみたいな。
KEN THE 390:斗真のラップとしては、まだそんな上手いわけじゃないんだけど、でも知らない奴の中に入っていきなり結構強気なことを言う。負けん気の強さだけはあるな、みたいな感じで。
結局、亜丸がそこで斗真を見て、ただの知らないヘタクソが紛れ込んできたんだけど、なんか良いなって思う要素があるんですよね。
ラップの上手さじゃなくて。なんか知らないけど、制服の奴が一人で入ってきて、ルールもよく分かってないのに、勢いだけなんかすげえって、思われるような、それを表現したいと思いました。
メッキは、剥がれたところから輝き始める
ーー 一方で、友達の亜丸は、また全然違う人生の軸ですね。
KEN THE 390:亜丸は最初は過酷な環境にいるのですが、それを隠して自分はすごい強い男だとラップしていて、でも最終的には、そういう自分の状況を受け入れることで、さらに強くなれるんですよね。「未熟だけど」、「俺の家庭環境は恵まれてないんだけど」、というところを受け入れて、そこを知っているからこそ強くなれる。
受け入れた言葉が出せるから、最後、自分の言葉が出せる。前の時は負けたけど、次は勝てるようになってる、そういう変化をどっかで書きたいな、とずっと思ってたんです。
ーー亜丸がサイファーで放ったライン ―「俺が主役 ここの中心 言葉を金に変えてくルーティン」とか ―「勝利の女神も羨む才能 表彰台の頂上がマイホーム」とかは、「現実的な匂いがしない」と斗真が言っていますね。
KEN THE 390:ここが、最終的には亜丸の欠点だなと思って書きました。
結局、バイトしてる高校生だから、本当にお金持ってるはずないのに「金に」、とかどっちかっていうと、明らかに背伸びして自分をカッコいい感じに作って。
ーーじゃあ、将来の夢的な感じでも違うのかな…。現実には、こういうラップってありますよね。
KEN THE 390:これが多分、本当に売れてる人が歌ったらアリだと思う。
本当にその人がラップすれば、普通の人が1か月で稼ぐお金が1回のライブで稼げるぜみたいな。本当だったらめっちゃかっこいいし、憧れるじゃないですか。
でも高校生がそれを歌ってリアリティがなかったら逆に背伸びしてて、ちょっとそれは…みたいな感じに僕らからすると見えるんで。そういう意味で書いてるから、あのスタイルが全部悪いと思っては全くないし、ここに対する説得力がどうあるかが大事だから、その説得力がまだないんじゃないかな。
ーーたしかにこの時の亜丸が言ったら、そうですね。
KEN THE 390:でもその背伸びが上手だから、ある程度の説得力を持たせられてはいるけど、そうやってどっちかっていうとメッキが綺麗に塗れてるぐらいの感じで書いてるんで、ただ、それは最初の斗真のから言うと、すごいもう憧れの対象というか、”ザ・ラップ”なんで、かっこいいって思ってる。でも世界からみると、そんなメッキはすぐに剥がされちゃうので。
ーー”メッキが綺麗に塗れてるラップ” すごい絶妙なバランス感ですね! 2人の成長度合いに絶妙にマッチしたリリック(※ラップ歌詞)が、どんどん出てくるというのも、この作品の魅力ですね。
KEN THE 390:ありがとうございます。あと、自分のこだわりでは、そこに書いてあるラップ、一応フロウ(※節回し)も決まってるから、そのままビート乗せたら全部ちゃんとラップできるようになってるんです。
ーーそうなんですね、是非聞いてみたいです。
KEN THE 390:読む人によってリズムは違うかもしれないけど、基本的な言葉の数とか韻の位置は自然に読んでもなんとなく気持ちよかったり、小節にはまったりしてそうだなと思っていて、さっきおっしゃったみたいに、拙さからだんだん成熟していく過程を韻の強度でも変えたし、内容のつながり方とか、選んでくる言葉のありきたり度とかは、こだわって書いているところです。
最初の方は、結構誰でも書けそうな、みんなが言いそうな言葉で、ラップさせておいたりとか、そのバランスはすごい変わってきてる。
ーーそこは、審査員とかプロデューサーをされているKENさんならではの書き方ですよね。
このキャラや成長度合いに合わせたラップ、こんなふうに書ける方は他にそんないらっしゃらないんじゃないのでしょうか。
KEN THE 390:最初のアイデアで、本当にストーリーとしては超王道ラインなんで、サッカーでも野球でもボクシングでもありそうな、”2人の真逆な少年が出会って盛り上がってぶつかって挫折して、最後もう1回立ち上がる”みたいなのって結構よくある形なんだけど、それをラップで書いてるものは、世の中にほぼ存在してない。
だから、ラップの目線でそこにリアリティみたいなのを出せられれば、と思いました。
ーーたしかにラップでは、あまり見たことないですね。
KEN THE 390:ストーリーとしてはすごい王道なんだけど、物語の手触りとしては、誰も読んだことのないものになるんじゃないかな。だからそのラップのシーンはどの小説が書くよりもリアリティが出るように、ちゃんとラッパーが書いてるというのが一番よいところだと思う。
自己受容から始めるヒップホップ
ーーこの物語はリアルなラップ描写だけでなく、KENさんご自身のラップの理念というか、”ラップ観”みたいなのが、たくさん散りばめてられていますね。ご自身がいつも考えられている”ラップって何だ”というのを物語に入れていこうという意図はあったのでしょうか?
KEN THE 390:最初は、そこまで意識してたわけじゃないんですけど。
僕の思うラップの良さって、自分のネガティブな要素などを曲にして発表することで、悲しみを武器にできるみたいな、裏返せるようなところかなと。
あとは最近、自己肯定ってよく言われてるけど、ラップって、その自己肯定にすごくいいな、とも思っています。
ーー自分をポジティブに捉える、的な?
KEN THE 390:「俺ってすごい」というよりは、例えば、自分の良くないところとか、ネガティブな環境とかを受け入れた結果として、自分を表現する、自己受容的な自己肯定。
それを「そんな自分は本当じゃない」とか、「この環境は本当の俺じゃない」って言ってる人は、まだラッパーとしては弱くて、自分の背負っているものを理解して受け止めた上で、そこから紡ぎ出して吐き出していく言葉がラッパーらしさになると思うんです。
僕はラップと出会ってラップを知っていく過程で、そういう自己受容は、すごく大事だなと思うようになりました。それで自分のメンタルも良くなったりしましたし。
ーーそれを物語に?
KEN THE 390:ラップのそういう魅力を、曲だけじゃなく物語として出したいと思いました。
ーー物語が進むと、最後、斗真と亜丸が二人でタッグを組んで、とある大型 2on2MCバトル(※)に出演します。もちろん、いろいろな紆余曲折の後ですが、ここは実際、物語をお読みいただくとして(笑)。
※ 2on2MCバトル:2人1組のチーム同士が即興または準備されたラップで対戦し、言葉の技量や観客の反応で勝敗を競うヒップホップのラップバトル形式。
KEN THE 390:そうですね(笑)。
ーー感動的なこの亜丸のラップ。ここは、一番泣けました。
「バイトで稼いで何がわりぃ?うちは母親も病み上がり。毎日泥まみれ、立ってる道端。石ころもダイヤに変える生き様」
これは、さっきおっしゃった自己受容からの覚醒?
KEN THE 390:そうだと思います。
やっぱり最初は、どっちかというと上辺のことを歌っていて。最初の「言葉を金に変えるのがルーティーン」って言ってるより、明らかにそっちの方がかっこよく響く。そうやってるのは、やっぱり自分のことをちゃんと受け入れつつ、それを武器に逆にできているっていう感じかなと。
亜丸はもともとラップが上手いという設定なので、それが発揮しやすい。
ーー上手いのにやっぱり欠点があって、でもここで弱さを受け入れたことによって才能が覚醒したっていう感じですよね。
KEN THE 390:ラップをより本当に突き詰めると、最終的には、自分を受け入れて表現することが本当の強さになっていくと思うんです。
あとはバトルは、相手の攻撃もないとやっぱり覚醒できない。やっぱり強い相手がきちんと言ってくれるから、言い返しで目覚めてくるってこともある。
ーー”バトルの中で成長していく”っていう感じですね。この物語の中で一番スキルフルかなって思ったのは、対戦相手の不韋のライン。 ―「お涙頂戴?いらねぇ戯言。これはバトル、感動ポルノ(※)じゃねえ!俺が求めるのは覚悟とスキルだ。足りねぇ奴から順に首吊らす!」は、アンサーとしても即興性も高くて、やはり上手な人のラップですね。
※感動ポルノ:ラップリリックにおいて、過剰に感情を煽るために悲劇や苦難を誇張して描く手法を指す。
KEN THE 390:そうですね。不韋はやっぱり大人なんで、最後は、今までの二人だったら絶対勝てなかったくらいのクオリティのラップにしたいなって思って。結構ガチのバトルで出てきそうなレベルのアンサーですね。
ーーなるほど。
KEN THE 390:敵が強くないと盛り上がらないから、結構キツめに主人公をちゃんと追い込めるようにしたい。強いラップを結構意識して書いてました。
ーーしかし、最後は亜丸と斗真のラップがその強さを上回らないといけないわけですよね。だから最後の2つが一番力を入れて書かれたのかな、と思ったのですが、亜丸のラスト。 ―「上等だよ、欲しいのは”哀れみ”じゃねぇ。悲しみも武器に変えるのがHIPHOP。誰かの二番煎じより未完成。選ぶ俺らが掴む、一番上!」
”誰かの二番煎じより未完成” ―これはいろんな方に知ってほしい言葉ですね。
KEN THE 390:そこは、時間使って、頑張って書きましたね。
ーー勢いもあるし、自己を受け入れてから、ようやく手に入れた力強さを感じます。
KEN THE 390:世の中的に不利な状況に立たされているのが亜丸。”ラップを武器に人生を逆転させる”って口で言うのは簡単だけど、当事者としてはすごく難しいこと。
だって、めちゃくちゃ不利な状況になのに、そもそも「なんで俺だけ仕事しないと生活できないの?」みたいに普通は思うじゃないですか。
周りの子は学校に行くけど、「俺は昼仕事しなきゃいけない」とか、「ラップももしかしたらできなくなるかもしれない」という自分の弱さもちゃんと受け入れて、それを言葉にすることが強さなんだって、自分で気づける過程を引き出しました。
ーーそして、斗真の最後のラップは、 ―「信じてくれる仲間がいる。だから必ず、まだまだいく。一人じゃ決して勝てない戦い 冴えない芋虫、今日からバタフライ!」
これはすごいですね。まっすぐな勢いとちょっとの拙さ、全部がすごく絶妙です!
KEN THE 390:そうですか、よかったです(笑)。拙いけど強くもなきゃいけないから、ここは一番難しかったかもしれない。亜丸の役はラップが上手い設定なんで、上手いラップをちゃんと書けばいいけど、
斗真は、ラップ始めてまだ1年未満。上手いラップはリアリティがない。でもちゃんと勝たせないといけない。
ーーこういうのが”勝てるラップ”なんですか、実際のバトルでは?
KEN THE 390:そうですね。実はこのバトルは、まだ1回戦です。
決勝にしてないのは、この2人が大人の大会で優勝まで行くのは、リアリティないなと思って。スラムダンクでいうと、山王戦。1回戦で湘北が勝ったけど、そこがクライマックスみたいな感じです。最強みたいな大人に1回勝つために全てを出し切った、みたいな。それ以降は次の試合で普通に力尽きて負けそうな感じ。
そのトーナメントで優勝するというよりも、1試合に全部かけてるようなシーンにしたかったので、そこで終わるようにしました。
ちょっとスラムダンク的な終わり方にしたいなと思って。
ーー最後の渾身の一球みたいな感じですね。「冴えない芋虫、今日からバタフライ!」は、”芋虫とバタフライ”で、やっぱり「Turn Up」?(※)
※「Turn Up」:T-PablowとSKY-HIをフィーチャーしたKEN THE 390 の楽曲。2016年にリリース。”見下された芋虫いつかバタフライ”というマイナスから這い上がる姿勢を歌うリリックが印象的。
KEN THE 390:「Turn Up」の歌詞でも自分が使ってるんですけど、今回はこれがすごいハマるなって思ったので。
ーー最後の”タタカイ”と”バタフライ”はライミング(※)してるんですよね。
※ライミング:言葉の音や語尾を揃えてリズムや響きを強調する技法。単語の音の一致や類似を通じて、聴き手の印象を強くし、表現の巧みさを際立たせる。
KEN THE 390:”タタカイ”と”バタフライ”、そうですよね。
「butterfly」って英語っぽく”f”を軽く発音をすると、”タタカイ”、”バタライ”で踏めるっていう。
だから字面通り踏むより、ちょっと頭の中で大変になるかもしれない。
ーーこういう、字面を無視して、音だけで捉えるライミングっていうのは、実は難しいテクニック、と以前伺ったことがあるのですが、この場合は斗真が、無意識にそれを勢いで?
KEN THE 390:普段、多少意識していると”バタフライ”と”戦い”って踏めるって即興の中で思いつくけど、むしろ、”バタフライ”って文字化して考えると一瞬、踏んでるとかわからないみたいな。でも単語として発音してみたら踏んでるよ、みたいな感じだと思います。
ライブ(※生ステージでの即興)としては、難しいんじゃないですか?
ーーそれを斗真があそこで出せたのも強さ?
KEN THE 390:なるべく難しい言葉を使わないで書きたくて、だから平凡な言葉の羅列なんだけど、ちゃんと強く聞こえるみたいな、そういうので勝てるラップにしました。
物語が乗るから、バトルは面白い
ーーこの物語は、映像化を目指してらっしゃるということですが、なぜですか?
KEN THE 390:もともと小説が書きたいというよりは、ラップを使った映像を作ってみたいなというのが先にあって、実際、自分は音の監修もできるから、ラップを使ったストーリーを映像にしたいなとずっと考えていたんです。
いつか映画を作る機会ないかなと思っていたときに、今回のストーリーラインが思いついて。最初は、脚本を書こうかと考えてたくらいだったんですよ。
ーーなぜ、小説に?
KEN THE 390:どっかに持っていくにしても、脚本だとみんなに見てもらえないので。今、僕の頭の中に浮かんでいるこのストーリーを一回、まずみんなに読んでもらうには、どうしたらいいかと考えたときに、一番いいのは小説なのかなと思って。小説っていうプラットフォームで書いてみたんです。
書いてから、「映像化したい」っていろんなところに言っとけば、どっかで引っかかってくれると思って、言いまくってるって感じです、誰彼かまわず(笑)。
ーーなるほど(笑)。映像にされたかったというのは、やはりたくさんの方の目に触れてほしいというお気持ちで?
KEN THE 390:いや、そういうわけでもないです。特にどのコンテンツが優れてるとかは、思わないですけど、僕自身がやっぱり映画好きだし。こういうヒップホップ小説もないけど、純粋にヒップホップ的な面白い映画もまだそんなに多くあるわけではないかなと思って。
「MCバトル、すごい人気があったのでヒップホップ流行ってるよね」とかは聞くけど、それをちゃんとストレートに取り上げてる映画はあまりないんで、だから映像もいいかなと。
ーーこの物語で、特に視覚化したいなって思ったシーンってありますか。
KEN THE 390:全部視覚化したいです。
ーー小説の内容すべてを?
KEN THE 390:どっちかっていうと、もっと深くも書けたんですよ。
ラップが上手くなるためのHowToのシーンとか、サイファー仲間のキャラクターを増やして描くとか、高校生ラップ選手権のオーディションシーンをもっと分厚くするとか。
今回の内容(※)は、短くできるところは、結構カットしてて。オーディションのシーンとかも練習までは描くけどオーディション自体のシーンはちょっと微調整して、ラップの細かいところは描かないとか。最終的に映像化したときに、本当に残したいなというシーンだけ描いています。
※ 『ブリング・ザ・ビート』初回版:2025年5月8日に公開された16,000字の初回公開版。7月17日には新キャラ・新シーンを追加した36,000字のアップデート版が公開されている。
ーーなるほど。バトルって聞くと、一般の人は怖く思う方もいるかもしれませんが、それを映画やドラマなどで映像化することによって、しかも主人公が高校生で一般の方であれば、怖さも軽減されるかもしれません。
KEN THE 390:そうだと思うし、あとは、物語が乗ってた方がMCバトルってもっと面白いと思ってて。バトル好きな人はそのラッパーのキャラクターを知ってるから物語も含めてバトルを見るけど、一般の人ってそうではないので。映画とかって物語として描いてくるから、必然的に絶対その二人の背景が描かれてるから面白いというか。
ボクシング映画も、普段ボクシングとかを絶対見ない方でも、やっぱりその二人の戦う人のバックグラウンドとか家庭とか、賭けてる思いを、全部ストーリーで見た上で戦われたら、やっぱり熱くなるものがあるじゃないですか。
ーーたしかに、そうですね。
KEN THE 390:背景が分かっているとより面白いので、だから物語としてバトルのシーンがあればすごくみんなが胸が熱くなるようなシーンを作れるんじゃないかなと。
ーーまた、シーンとしても素敵な場面がたくさんありますよね。斗真がラストでZepp Yokohamaに走っていく場面とか、二人でステージ上で無言で視線を交わす、みたいな場面は、映像化したらすごくかっこいい。ここは文字だけではもったいないなと感じました。
KEN THE 390:ありがとうございます。
音楽でもあり言葉でもあるラップ
ーー今回、バトルやラップカルチャーを文学として文字に落とし込むっていうのは、苦労はありましたか? 書いてみて気づいた音楽と文学的な表現の違いのような。
KEN THE 390:僕が思ってるより、共通点も多く、すごいシームレスに書けた感じがしました。
ーー難しいこともなく、スムーズに?
KEN THE 390:ラップのリリックだから、本来は口に出して音として聞くものを文字で伝えてるってどうなのかなと思ってたんですけど、書いてみたら、これはこれで、逆に音がないぶんイマジネーションが広がっていいかな、っていうのを少し思いました。
ーーそうですね。ラップって少し特殊で、音楽ではあるけど、言葉のようでもありますね。
KEN THE 390:韻を踏むという技術が、すでに言葉の中に入ってるんで、例えば、歌だと歌詞だけを見せられてメロディーを想像させるのって結構難しいと思うんですけど、言葉数が揃ってて、韻がちゃんと強度よく含まれてれば、上手いラップとかは、読んでも結構わかる気がして。それが良いなと思ったんですよね。歌だと、歌詞読んだだけじゃ、歌が上手いかどうかは絶対わかんないじゃないですか。
ーーたしかに。リリックの上手さはわかっても、音がないと、なかなか歌の上手さは伝えにくい。
KEN THE 390:ラップは、そうやってリリックを読めば、なんとなく表現の上下とかレベルの高さまで、わかってくる。それこそ知らない人が読んでも、上手くなっているなってわかると思うので。歌だとなかなか、そうはいかない。
ちゃんと上手く書ければ、「あ、主人公、ラップ上手くなってきたな」って、だんだんとわかってくるので、書いてて面白いなと思いました。
ーーそれが、ラップの特徴かもしれないですね。音楽でありながら文字でも理解できるっていうのは、小説に向いてるのかもしれないです。
今回、小説に挑戦された後、今後続編や、そのほかの音楽と文学を融合させるプロジェクトなど、そういったものに興味を持たれたりしましたか?
KEN THE 390:僕、最初は、映像をイメージして短編で書いて、1万5千字くらいだったんですけど、「これを本にしますからと、あと何倍か長くしてください」って言われても、多分書けると思うんですよね。
逆にそれはそれで面白いから、時間が取れたときに、ある程度やりたいなと。
サイファー仲間のキャラをもっと増やして描いても面白いし、オーディションで突きつけられて、もっと主人公が自分の足りなさというか、「全部持ってるはずなのに、何も持ってない」って思っちゃうことーーとか。
描けること、いっぱいあるので、本にするとかで、肉付けを逆に増やすっていうのは、全然できるなと思ってます。
ーーじゃあ、連続ドラマ化とかでも大丈夫みたいな感じですか(笑)。
KEN THE 390:そんな話だったら、ぜひ聞かせてもらいます(笑)。
ーー続編も見たいですよね。彼らが今後、どんな感じで成長していくのかとか。
KEN THE 390:ありがとうございます。
➤KAIHO(OCTPATH)に聞く『ブリング・ザ・ビート』
今回、KEN THE 390の主催フェス「LYRICIST GARDEN」で共演したOCTPATHのKAIHOさんに、小説『ブリング・ザ・ビート』の魅力を聞いてみました。
ーーKAIHOさんは、『ブリング・ザ・ビート』を読まれましたか?
KEN THE 390:KAIHOは(小説のことで)メールもくれてるよね。
ーーいかがでしたか?
KAIHO:主人公のキャリアが僕とは、全然違っていて、すごくフレッシュに感じたんですけど、学生時代の描写に重なる部分もありました。
僕も青春時代はダンスだったり、イベントごとにすごく精力を注いでいたので。友達をきっかけにラップを始めて、そこからのめり込んでいくという流れは、ジャンルは違ってもすごく共感できました。
なんか自分を見ているような気がして、すごく入り込みやすかったです。
全8章、一気に読んじゃって、本当に楽しかったです。
KEN THE 390:ありがとうございます。
ーー小説の中に、主人公の斗真さんとその友達の亜丸さんが登場しますが、ご自身がどちらかに似ていると感じた部分はありますか?
KAIHO:すごく僕、友達に影響されるタイプなので……斗真さんですね。
ーー主人公の?
KAIHO:そうですね(笑)。
ーー小説の中には、たくさんラップのリリックが登場しますが、KAIHOさんが一番印象に残ったリリックはありますか?
KAIHO:一番最初に、斗真がセッションみたいなのをやって、フリースタイルで、バトルじゃないのにめっちゃディスったところが面白くて。めっちゃストレートだなって思ってました。
ーー第2章の「てか、お前ら全員雑魚の集まり、俺にかなうやつなんかない 伝説の始まり」のところですね。
KEN THE 390:「ヘタクソの集まり」みたいに言ってたね(笑)。
KAIHO:「ダセぇんだよ」みたいな(笑)。「見せつけてやるスキル」みたいなところがめちゃくちゃフレッシュで、ただただディスってる感じがすごく好きでした。その炎上感というか、そういうのがめっちゃ印象的でした。
KEN THE 390:ありがとう(笑)。
小説『ブリング・ザ・ビート』
違う現実を背負った二人の少年が、ラップを武器に未来を切り拓く—— 青春 × HIPHOP ストーリー.
改訂版としてアップデート。
初稿から大幅に加筆し、新しいキャラクターやシーンも追加でますます面白く!
➤noteで全文無料公開中。https://note.com/kenthe390_/n/n0d919c26d1fa
[開催決定] 10月18日(土) CITY GARDEN 2025 @ 豊洲PIT
「CITY GARDEN 2025」
2025年10月18日(土)
OPEN 13:00 START 14:00
■LINE UP
梅田サイファー
CHICO CARLITO
Fuma no KTR
Bimi
TOKYO 世界
Vacchus(TATSUAKI×Fuga)
Cuegee
KAIHO from OCTPATH
Jene × DJ RION
Presented by KEN THE 390
■会場
豊洲PIT
(〒135-0061 東京都江東区豊洲6丁目1-23)
■ チケット
<一般発売>
・イープラス https://eplus.jp/citygarden/
・チケットぴあ https://w.pia.jp/t/citygarden/
・ローソンチケット https://l-tike.com/city-garden-2025/
・楽天チケット https://r-t.jp/citygarden
※別途 1 ドリンク代、4 歳以上チケット必要。
※座席形態:全自由
■お問い合わせ
SOGO TOKYO : 03-3405-9999 (月~土 12:00~13:00/16:00~19:00※日曜・祝日を除く)
【注意事項】
客席を含む会場の映像・写真が公開されることがあります。
U-18割について、4~18歳迄対象、イベント当日、年齢を証明できる顔写真付き身分証をご持参ください。
身分証を忘れた際は、差額を頂戴する場合がございます。
■ プロフィール
KEN THE 390(ケンザサンキューマル)
ラッパー、東京都町田市出身。音楽レーベル”DREAM BOY”主宰
フリースタイルバトルで実績を重ねた後、2006年にデビューアルバム『プロローグ』をリリースし、以来12枚のオリジナルアルバムを発表している。全国ツアーだけでなく、タイ、ベトナム、ペルーといった海外でもライブを開催し、グローバルな支持を集める。
テレビ朝日「フリースタイルダンジョン」では審査員として出演し、鋭いコメントとその洞察力が話題を呼んだ。
近年はさらに活動の幅を広げ、主催フェス「CITY GARDEN」の開催や、「『ヒプノシスマイク-Division Rap Battle-』Rule the Stage」「『進撃の巨人』-The Musical-」での音楽監督を担当。また、「PRODUCE 101 JAPAN Season 2、Season 3」ではラップトレーナーとして参加するなど、HIP HOPを軸とした多岐にわたるプロジェクトに挑戦し続けている。
公式HP:https://www.kenthe390.jp/
楽曲:https://www.tunecore.co.jp/artists?id=199838&lang=ja


